概日リズムは生物の日々の活動や環境への適応に不可欠のしくみであり、その中枢は哺乳類では視床下部視交差上核(SCN)に存在する。我々はSCNによる概日リズムの発振並びにその環境への同調機構について解析を行っている。最近我々は、SCNにおいて一回膜貫通タンパク質BITのチロシンリン酸化が昼と夜で変化することを見いだし、これが概日リズムの光同調などの関与することを見いだした。そこで、BITの機能をさらに明らかにするため、BIT結合タンパク質をラット脳より精製し、同定を行った。同定したタンパク質のなかでクラスリンとAP2はクラスリン依存性エンドサイトーシスに必須なタンパク質であり、詳細な解析の結果、これがリン酸化していないチロシン残基を認識して結合し、リン酸化すると結合しなくなることが明らかになった。さらに、細胞内ドメインの4カ所のチロシンリン酸化サイトをフェニルアラニンにかえると、リソゾームへの輸送されなくなることが明らかになった。このことから、BITのチロシン残基は、リン酸化状態ではSHP-2と結合してMAPKカスケードを活性化する一方、脱リン酸化状態ではAP-2と結合してクラスリン依存的エンドサイトーシスによってリソゾームに運ばれることが明らかになった。一方、BITの細胞外ドメインに対する抗体を脳内に投与してBITのチロシンリン酸化を誘導する実験により、BITが交感神経系を活性化することが示唆された。現在さらにBIT結合タンパク質の解析を進めるとともに、BITの視床下部の細胞における機能とエネルギー代謝調節への関与についてさらに解析を進めている。
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