これまでに我々は、ラットにおいて概日リズムの光同調に伴い、BIT/SHPS-1と呼ばれる細胞膜一回貫通型蛋白質が、概日リズムの中枢である視床下部視交叉上核でチロシンリン酸化することを見出し、本研究課題においてその機能解析を進めてきた。その結果、BIT/SHPS-1が視床下部による概日リズムと自律神経の調節に密接に関与することがわかってきた。今年度の本研究課題では、まず、BIT/SHPS-1のリン酸化型を特異的に認識する抗体を調整し、これを用いて脳のいかなる部位でBIT/SHPS-1のどの部位がリン酸化されるかを免疫組織化学的手法を用いて検討した。また、BIT/SHPS-1の細胞内ドメインの働きを詳細に解析するため、細胞内ドメインを大腸菌に発現させ、NMRにより水溶液中での構造を解析し、非常にフレキシブルな構造のままSHP-2のSH2ドメインと結合し、いわゆるnatively unfolded proteinとしてはたらくことが示唆された。さらに、BTT/SHPS-1とともにSrcファミリーの基質であるbeta-adducinが視床下部において摂食などのホメオスタシス維持にかかわっていることが判明した。以上の研究により、BIT/SHPS-1が概日リズムの光同調とそれに伴うエネルギー代謝の恒常性維持において非常にユニークな働きをしていること、また、こうした視床下部による概日リズムとホメオスタシスの調節にBIT/SHPS-1のみならず他のSrcファミリーの基質が関与することから、Srcファミリーチロシンキナーゼの脳における新たな役割が示唆された。
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