細胞極性・接着は、物理的に隣り合う細胞間隙の物質透過を制限し、細胞膜を頂端側と側基底側に分離すると共に、細胞膜上の膜ドメインとしてシグナル伝達分子を集積しているタイトジャンクション(TJ)によって支えられている。TJの形成には、構成する膜蛋白質であるクローディンやオクルーディンが、細胞膜まで小胞輸送されることが必要であり、正常な発生・分化や癌細胞の浸潤・転移といった病理過程において、TJはダイナミックに形成・分解されている。細胞内小胞輸送の代表的な制御系であるRabファミリー低分子量G蛋白質(Rab)には60以上のメンバーが同定されており、個々のメンバーが特定の細胞内膜系に局在して小胞輸送および膜ドメイン形成を制御している。これまでに、TJに局在するRab13が、クローディンのゴルジ体から細胞膜への輸送およびオクルーディンのエンドソームから細胞膜へのリサイクリングを特異的に制御することを明らかにしてきた。そこで、本年度の研究では、細胞極性・接着の制御におけるRab13の役割を明らかにする目的で、Rab13の標的蛋白質の同定を試み、以下の結果を得た。1)酵母Two-hybrid法を用いて、GTP結合型Rab13に特異的に結合する分子としてJRABを同定した。2)JRABは脳、肝臓、腎臓、肺に発現し、マウス乳腺上皮(MTD-1A)細胞のTJに局在した。3)JRABのRab13結合領域欠失変異体(JRAB-N)は、オクルーディンの細胞膜へのリサイクリングを特異的に抑制した。4)JRAB-Nは、カルシウムスイッチしたMTD-1A細胞における機能的TJの形成を抑制した。これらの結果から、Rab13は、標的タンパク質JRABを用いて、細胞極性・接着を制御していることが示唆された。このように、本年度の研究は予想以上に進展し、当初の目的はほぼ達成できた。
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