研究概要 |
私達は神経系に多く発現している酸性スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)の合成に関わる糖転移酵素遺伝子のクローニングを行い、神経系におけるガングリオシド機能の解明を目指して、これらの糖転移酵素遺伝子の欠損マウス(KOマウス)を作製し、その解析を行ってきた。ガングリオシドGM2/GD2合成酵素遺伝子KOマウスでは、神経再生能の低下と加齢に伴う神経機能の異常および神経変性等の病理所見が認められた。b系列ガングリオシドを欠損するGD3合成酵素遺伝子KOマウスでは、神経再生能の低下以外は、著明な異常は検出されていない。しかしマウスの網膜では、GD3が特異的に発現しており、重要な役割を果たしていることが示唆される。本研究では網膜におけるGD3の役割を明らかにするために、現在までに以下の結果が得られている。 1、網膜でのb-series gangliosidesの発現パターン [GD3]P0〜P14ではInner neuroblastic layer(INbL)、P21〜AdultではGanglion cell layer(GCL)、Outer plexiform layer(ODL)、Outer nuclear layer(ONL)及びPhotoreceptor cell layer(PCL)のInner segmentに発現。[GD2]出生後から成熟するまで全体的に弱く発現。[GD1b]P0〜P5ではINbLに弱く発現、P7〜P14ではINbLとInner plexiform layer(IPL)に、P21〜AdultではINbL、IPL、PCLに発現。[GT1b]P0〜P5ではINbLに弱くP7〜AdultではGCLとIPLに発現していた。 2、Laser Capture Microdissection (LCM)による神経細胞の収集とRNA調製法の検討 野生型及びGD3欠損マウスの網膜における遺伝子発現を調べるため、LCMを使用した実験系の基礎条件を検討した。LCM操作とRNA調製法の条件検討の為に、小脳プルキンエ細胞および舌下神経を収集しRNA調製を行った。その結果、細胞によりRNAの回収効率は異なるが、細胞数を500個〜5000個で、数10〜数100pgのRNA調製が可能であった。 3、野生型及びGD3欠損マウスの網膜および脈絡膜の病理所見の比較 GD3KOマウスにおいては色素上皮層の色素上皮細胞配列の乱れが認められた。今後、野生型およびKOマウスの網膜組織における神経成長因子(NGF,BDNF,NT-5,NT-3,GDNF,CNTF,LIF)とそのレセプターの発現について、LCM法を用いて検討する。
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