我々はDNA複製エラーとゲノムインスタビリティーの分子機構の関係を解析するため、複製エラーを特異的に増加するDNApolα変異体をスクリーニングしL868Fpolαを得た。酵母L868Fpolαはin vitroで600倍の複製エラーの増加と、細胞中で約8倍のゲノムインスタビリティーをもたらした。またpolαのエラー修復にミスマッチ修復機構が関与していることを明らかにした。さらにL868Fpolαは、紫外線損傷DNA(CPD)等に対し一定の乗り越え活性を示す。逆に損傷乗り越え型DNApolηの相等PheをLeuに置換した変異体では、損傷乗り越え活性が低下した。同様の結果はヒトDNAポリメラーゼでも得られた。また、polαエラーとミスマッチ修復機構の間に少なくとも二つの経路があることを発見した。まず第1に、DNApolαの複製エラーは同じ複製ポリメラーゼであるDNApolδによって校正される。興味深いことにもうひとつの複製ポリメラーゼであるεは関与せず、この過程は特異性が高い。また、第2の経路はさらに別のDNAポリメラーゼの関与を示唆するものであり、現在その詳細について検討を行っている。これらの結果は損傷乗り越え型DNApolに特異的に保存された本アミノ残基がDNA複製酵素群の精度と機能分化に重要であること、polαエラーの下流には特有のエラー処理機構が存在すること、これらが協調してゲノムインスタビリティーの抑制に関与していることが示唆している。
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