Ekerラット(遺伝性腎がんモデルラット)の原因遺伝子であるTsc2(ヒト結節性硬化症遺伝子ホモログ)産物は、ATP量の低下を感知して下流の代謝系・輸送系を制御するAMP依存性キナーゼの下流に位置することが報告されている。一方、我々は別の遺伝性腎がんモデルであるNihonラットの原因遺伝子であるBhd(ヒトBirt-Hogg-Dube症候群遺伝子ホモログ)産物が出芽酵母のアミノ酸輸送変異株の原因遺伝子として同定されたLst7に相同性を示すことを見出した。本研究は腎発がんに関与する遺伝子と輸送系やATP代謝・産生系の関連を明らかにすることを目的としている。まず出芽酵母のLst7欠損変異株を作製し、野生型株に比べてラパマイシン感受性がわずかに高まっていることを確認した。この変異株にラットBhdホモログを発現させたが、ラパマイシン高感受性が抑制される結果は得られなかった。また、酵母Lst7産物と結合することが報告されている輸送系分子Sec13とSec24産物の哺乳類ホモログをクローニングし、培養細胞における強制発現系と免疫共沈降法により結合を確認したが、有意な結合を示す結果は得られなかった。また本研究ではNihonラット由来のBhd欠失腎がん細胞に、テトラサイクリン制御によるBhd発現系を導入した細胞の樹立を進めた。一方、RNAiにより293細胞やHela細胞で内在性BHDの発現を効率良く抑制する実験系を確立した。通常の培養条件でこれまで調べた範囲では、糖・アミノ酸輸送やATP量感知のシグナル伝達系との関連は見出されていない。しかしながら、糖・アミノ酸飢餓条件下等での解析が現在進行中であり、今後詳細に検討を進める予定である。これらの研究の途上で血清飢餓条件下でBhd産物の発現量が上昇する傾向なども見出しており、増殖刺激とBhd産物の機能の関連も併せて検討したいと考えている。
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