本研究課題では遺伝性腎がんモデル動物(Ekerラット、Nihonラット)の原因遺伝子産物(Tsc2、Bhd)の機能と腎発がん機構解明に向け、特に糖・アミノ酸輸送、ATP量感知に関与するシグナル伝達系に対する、それぞれの産物の関与について調べた。これまでにTsc2産物に関しては、ATP量低下により活性化されるAMPキナーゼによりリン酸化され、mTOR経路を抑制する機能を保持することが示唆されていた。本年度は特にBhd産物に注目して解析を進めた。COS7細胞を用いた強制発現系により、Bhdの共発現によりAMPキナーゼの触媒サブユニットの発現が増強される傾向が認められた。しかしながらBhd欠損腎がん細胞にBhd発現系を導入した細胞株(1Bシリーズ)においては、これまでの条件下では顕著なAMPK発現の亢進は認められていないことから、何らかの細胞・環境特異性が考えられた。1Bシリーズの増殖はコントロールの非発現細胞に比較して顕著に抑制される傾向は認められなかった。また、Glut1等の各種トランスポーターの発現に大きな変化は認められなかった。しかしながら細胞の形態、特に細胞同士の接着が明らかに変化していた。これらの細胞株を用い、Bhd産物に対する抗体による免疫共沈降法によりBhd結合蛋白の同定を試みたところ、アクトミオシン系の細胞骨格関連蛋白が共沈降してくることがわかった。酵母では、Bhd類似遺伝子欠損変異体におけるアミノ酸輸送体の形質膜への配置異常が知られており、輸送系との関連が示されている。哺乳類細胞においてもBhd産物が細胞骨格制御に関わっており、それと関連した輸送系の異常が生じている可能性が示唆された。今後、これらの成果をもとに、さらに研究を進める。
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