Ekerラットの遺伝性腎癌原因遺伝子であるTsc2(ヒト結節性硬化症遺伝子ホモログ)産物は、ATP量の低下を感知して下流の代謝系・輸送系を制御するAMP依存性キナーゼの下流に位置することが報告されている。一方、我々は別の遺伝性腎癌モデルであるNihonラットの原因遺伝子であるBhd(ヒトBirt-Hogg-Dube症候群遺伝子ホモログ)の産物が出芽酵母のアミノ酸輸送変異株の原因遺伝子として同定されたLst7に相同性を示すことを見出した。まず出芽酵母のLst7欠損変異株を作製し、野生型株に比べてラパマイシン感受性がわずかに高まっていることを確認した。この変異株にラットBhdホモログを発現させたが、ラパマイシン高感受性が抑制される結果は得られなかった。また、酵母Lst7産物と結合することが報告されている輸送系分子Sec24産物の哺乳類ホモログをクローニングし、培養細胞における強制発現系と免疫共沈降法により結合を確認したが、有意な結合を示す結果は得られなかった。一方、Nihonラット由来のBhd欠失腎がん細胞に、テトラサイクリン制御によるBhd発現系を導入した細胞(IBシリーズ)の樹立を進めた。1Bシリーズの増殖はコントロールの非発現細胞に比較して顕著に抑制される傾向は認められなかった。また、Glut1等の各種トランスポーターの発現に大きな変化は認められなかった。しかしながら細胞の形態が明らかに変化していた。これらの細胞株を用い、Bhd産物に対する抗体による免疫共沈降法によりBhd結合蛋白の同定を試みたところ、アクトミオシン系の細胞骨格関連蛋白が共沈降してくることがわかった。Bhd産物が細胞骨格制御に関わっており、それと関連した輸送系の異常が生じている可能性も示唆される。今後この点に関し、詳細に検討を進める予定である。
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