昨年度、低酸素下のがん細胞において不忠実DNAポリメラーゼι(Polι)の発現が亢進し、これに転写因子hypoxia-inducible factor-1が関与していることを見出した。本年度は、低酸素/再酸素化による活性酸素種(ROS)の発生とPolιの発現亢進が低酸素による突然変異の頻度の上昇にどのように関わるのかの検討を行い、以下の結果を得た。 1)HeLaやHepG2細胞を1%O_2下で24時間培養した後、再酸素化すると、細胞内で多量の活性酸素(ROS)が一過性に発生し、突然変異を誘発しやすい8-oxo-dGが生成されることを見出した。 2)低酸素下でPolιの発現亢進が認められる乳癌細胞株MCF-7を1%O2下で24時間培養した後、細胞周期をFACScanで解析したところ、低酸素下でもDNA合成が進行しており、発現亢進したPolιが低酸素/再酸素化により生成された8-oxo-dGを乗越えてDNA合成を行えることが示唆された。 3)低酸素/再酸素化による突然変異率の変化をsupF shuttle vector pMY189を用いてMCF-7細胞で検討したところ、突然変異率が上昇することが確認できた。そこで、Polι siRNAを細胞に導入し、同様に突然変異率を調べたところ、低酸素/再酸素化による突然変異率の上昇が抑制されることが判った。 これらの結果より、低酸素によるPolι発現の亢進が、低酸素/再酸素化による突然変異率の上昇に関与していることが判明した。
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