【目的】低酸素/再酸素化に曝露された細胞では突然変異の頻度が上昇し遺伝子不安定性が増すことが知られているが、その機序はほとんど不明である。同細胞内では活性酸素が生じ、高率に突然変異を引き起こしやすい8-oxoGが生じることが知られている。我々は、8-oxoGを乗り越えてDNA合成を進める損傷乗り越えDNA polymeraseがこの機序に関与するのではないかと考え検証した。 【結果】HeLa細胞を常酸素あるいは低酸素(1%O_2)下で6-24時間培養した後、損傷乗り越えDNA polymeraseのうちでη、ι、κ、μの遺伝子発現をRT-PCR法で検討したところ、DNA polymeraseし(polι)の発現が顕著に亢進していることが判明した。Polι遺伝子発現の促進は、低酸素をミミックすることが知られるdesferrioxamineやCoCl_2処理でも認められた。低酸素によるpolι遺伝子発現の促進は、調べた8種類のがん細胞いずれにおいても認められた。Polι遺伝子のプロモーターを含む領域(-1345/+419)を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイにより、転写活性が低酸素およびconstitutive active HIF-1αに応答し上昇すること、低酸素による転写活性の上昇がdominant negative HIF-1αにより抑制されることが判った。さらに、intron1中に存在するACGTG配列(+331/+335)が低酸素応答に最も重要であること、ゲルシフト法及びクロマチン免疫沈降法によりこの塩基配列にHIF-1が結合することが明らかになった。一方、乳癌細胞株MCF7細胞を低酸素/再酸素化すると突然変異率が上昇するが、polιsiRNAを作用させてPolιの発現を抑制すると突然変異率が減少することが判った。 【結論】低酸素/再酸素化による突然変異の誘発にPolιが関与する可能性が示唆された。
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