【1】HDAC class II発現低下の肺癌発症進展における意義の検討 肺癌におけるHDAC遺伝子群の発現を検討したところ、HDAC遺伝子群はclassIとclassIIでは発現パターンが異なること、及びHDAC class IIの中でHDAC5・HDAC10の低発現が、特に強い肺癌予後不良因子となることが判明した。そこで更に、HDAC5・HDAC10の肺癌細胞増殖への影響を検討した。すると、HDAC5遺伝子が、肺癌細胞の増殖を抑制する結果がえられた。これらの研究成果は、HDAC class IIが肺癌発症に深く関与することを示唆した。 【2】DNAメチル化とピストン修飾との関連の検討 気道上皮細胞に増殖抑制シグナルを伝えるTGF-β II型受容体(TGFβRII)の肺癌における発現消失機構について、DNAメチル化とヒストン修飾異常、及びヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤に対する反応性との関連を検討した。TGFβRIIの軽度の発現低下ではヒストンH3の脱アセチル化が起こり、更にヒストンH3-Lys4のメチル化低下、DNAメチル化異常という順にクロマチン構造異常が進行すると考えられた。又HDAC阻害剤に対する反応性を検討したところ、H3アセチル化が誘導されると同時にH3-Lys4メチル化が誘導され、HDAC阻害剤除去後、H3アセチル化は迅速に除去されるが、H3-Lys4メチル化は比較的安定して残り、転写誘導の継続に相関することが示唆された。 【3】クロマチン構造制御のキーとなる分子・小RNA分子の検討 近年小RNA分子機構がクロマチン構造維持に関与すことが示唆され注目されている。この小RNA分子合成に関与するRNA分解酵素Dicerの発現異常の有無を検討した。するとDicer低発現症例は非常に予後不良であることが判明した。この解析結果は、小RNA分子を介したクロマチン構造制御の破綻が、肺癌発症に関与する可能性を示唆している。更に小RNA分子の中でmicroRNA(miRNA)について検討した。小細胞肺癌を中心に高発現を示すmiRNA群を見出し、miRNAの異常の組織型特異性が示唆された。更にそのmiRNAが肺癌の増殖を促進することを確認した。
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