研究概要 |
PCS(premature chromatid separation,早期染色分体解離:OMIM#176430)は、分裂期の紡錘体形成チェックポイント障害による染色体不安定性(異数性細胞の産生)を基点とした新しい高発がん性の遺伝形質である。PCS遺伝形質は家系内で優性遺伝し、ヘテロ接合の保因者は健常であるが、ホモ接合個体は重度の先天異常とともに多くが腫瘍(とくにウィルムス腫瘍)の発生を伴う。本研究では、PSCの遺伝学的素因の解明とともに、腫瘍の発生機構を明らかにすることを目的としている。本年度はとくに、原因遺伝子の変異解析に成果が得られた。 1.紡錘体形成チェックポイントに関わるタンパクのひとつであるBUBR1の遺伝子BUB1Bについて本邦7家系を対象に解析を行い、そのいずれにも突然変異を同定し得た:一塩基欠失が4家系に、3家系のそれぞれにスプライス変異、ナンセンス変異、ミセンス変異(広島大学・松浦教授らとの共同研究:Matsuura et al. : Am J Med Genet, 140A:358,2006)。 2.PCS患児に発生した腫瘍では、特異的に11番染色体が片親(父方)ダイソミー(UPD)であることを認めており、本疾患では体細胞における高頻度な染色体不分離現象(ある染色体の増加につづく消失)が、UPD発生の素地であることが示唆される(国内学会報告、2005)。 3.PCSの新たな2家系がみつかり、臨床症状とともに、染色体検査(PCSの検出頻度)と遺伝子解析(BUB1B変異)により確定診断ができた。このうち1例のPCS患児から腫瘍サンプルが得られ、培養細胞の染色体解析と多型性DNAマーカーの検索を施工中である(米国学会報告、2005)。
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