ゲノム刷り込みは、一対の対立遺伝子のうち一方の親由来の遺伝子のみが発現する現象で、刷り込み調節領域(ICR)の刷り込みマークに基づき遺伝子発現が決定される。11p15.5は、複数の刷り込み遺伝子が存在する領域であり、刷り込みの破綻はBeckwith-Wiedemann症候群(BWS)や癌と関連する。本研究では刷り込み調節の分子基盤と疾患との関連について解析した。 1.KIP2/LIT1刷り込みドメインのICRであるDMR-LIT1は、母性アレルのみメチル化している。BWS患児ではこの母性メチル化とともにヒストンH3K9メチル化も喪失することを明らかにした。癌において腫瘍抑制遺伝子KIP2が物理的に離れたDMR-LIT1のDNAとH3K9のメチル化により制御されていることを明らかにした。また、DNAメチル化酵素とH3K9メチル化酵素を欠失したES細胞の解析から、刷り込み維持にはDNAメチル化とヒストンH3K9メチル化の両方が重要であることが示唆された。 2.正常細胞とBWS細胞をプロテインチップで解析し、刷り込み調節候補分子をスクリーニングしたが、これまでに刷り込みに関与すると推測される分子は同定できていない。 3.ヒストンH3K9、H3K27、H4K20のモノ、ジ、トリメチル化について解析した。その結果、H3K20のモノメチル化のみが父アレルに優位に存在することが判明し、新たな刷り込みマークである可能性が示唆された。 4.弧発性Wilms腫瘍37例について、ジェネティック、エピジェネティックな解析を行った。ジェネティックな異常としては11p LOH(27%)が、エピジェネティックな異常としてはIGF2 LOI(37%)が最も高頻度であった。また、11pの異常は9割の症例に認められ、Wilms腫瘍発生に最も重要な染色体領域と考えられた。
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