研究目的:ヒト遺伝子解析には文部科学省、厚生労働省、通商産業省のいわゆる「3省指針」がある。この指針はユネスコやWHOなどの国際機関のガイドラインなどと比較するとかなり違う点がある。そのような違いの背景を解明するとともに、生命倫理の視点からわが国固有の問題があるのか、あるとすれば国際的な指針とどのような調和が求められるかを検討したい。 研究結果と考察:平成16年度末に上記3省指針が改定されたが、その機会に他の研究者とともに意見をまとめて提言した。しかしながら現在の研究、行政体制では実現できない点もあり、今後の検討課題としたい。具体的には、指針で重視されている「遺伝カウンセリング」について、保険点数などの裏付けがないこと、国家資格がないことなどから普及が遅れていることが本研究の聞き取り調査によって明らかになった。このことは、日本に限らず、広くアジア諸国に共通する問題点であり、中国のように人口増抑制政策を進めている国での遺伝カウンセリングの普及が緊急に必要である。広島、長崎の原爆二世の健康調査でも倫理的配慮はきわめて重要であり、調査に用いる書類の発送元を封筒にどう記載するか、などの慎重な検討がなされている。現在国内で進められている大きな集団を対象として遺伝子解析についても、慎重な表現、記載が求められている。調査研究と平行して進めたマウスの放射線障害の実験研究では、原爆被爆者の健康調査に際しての調査項目の選定に参考となる実験結果、具体的には消化器系への影響の表れ方の時間的な変化が把握できた。
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