研究概要 |
HPVの癌遺伝子蛋白の発現に伴い、Rb蛋白機能調節にあたるp16蛋白が子宮頚部異形成や癌において過剰発現しており、病理組織診断上の非常に優れたマーカーになることがわかってきた。今回、p16と、そのsplicing variantであるp14ARFに注目し、子宮頚部病変において蛋白質発現とともに、mRNAの増幅があるかどうかを検討した。方法として、臨床的に採取された細胞診液状化検体からmRNAの抽出を行い、real-time PCR法にて、p16、p14ARFのmRNA量の測定を行なった。対象症例として、細胞診陽性症例および陰性症例をそれぞれ用いた。結果、一部の異形成や上皮内癌、浸潤癌検体ではp16、p14ARFのmRNA量の増幅が見られたものの、陰性症例においてもp16、p14ARFのmRNAの増加している症例が多数認められ、陽性症例と陰性症例間にmRNA量の有意な差を認めなかった。これは、蛋白質発現量を指標とした免疫組織染色での知見とは一致せず、臨床的応用は難しいとの結論に至った。おそらくは、液状化検体内に腫瘍細胞とともに回収される炎症細胞や化生上皮などにもp16、p14ARFのmRNAが基本量として低量ながら存在し、これらの細胞が多量に混入した場合、腫瘍細胞からのmRNA量をマスクしてしまう可能性が考えられた。 また、p16と同様に細胞周期調節蛋白の一つで、G2チェックポイントに働く蛋白である14-3-3sigma蛋白について、頚部病変とともに採取される可能性の高い内膜病変での検討を行なったところ、14-3-3sigmaは進行内膜癌に過剰発現していることも明らかとなる一方、分泌期正常内膜腺にも14-3-3sigmaの発現が認められ、内膜腺細胞を含む頚部検体の14-3-3sigmaの評価には注意が必要であると考えられた(Nakayama H, Sano T et al. Pathol Int, 2005)。
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