研究概要 |
本研究は「腫瘍において病理形態学的に同定される分化度や分化方向性がその腫瘍のbiologyを規定する重要な因子の一つである」という病理総論的現象の分子病理学的解明が究極の目的である。肝細胞癌では肝細胞特異的転写因子として知られる複数の転写因子の発現パターンが分化度に重要であることが知られてきたが、他の腫瘍においては不明である。 我々は肝細胞特異的転写因子のうちC/EBP-βに注目し、(1)通常型胃癌細胞株7株とAFP産生胃癌株3株、(2)ラット膵腫瘍細胞株AR42J-B13、(3)ラット卵黄嚢腫瘍株AT-2-TCを用いC/EBP-βの発現解析および遺伝子導入実験を行った。これまで以下の結果を得た。 1.ヒトAFP産生胃癌では通常型胃癌細胞に比べ、HNF-1αの高発現、HNF-1αの低発現、および活性型C/EBP-βisoform(LAP)が抑制型isoform(LIP)に比し相対的に高いことなどを見出した。今回AFP産生胃癌株にLIPを導入し結果、transferrinの発現低下、CEAの発現上昇などpartialな肝細胞形質の抑制が認められた。 2.ラット膵腫瘍細胞株AR42J-B13はC/EBP-βにより肝細胞へ分化転換するユニークな細胞である。我々はC/EBP-β導入により血行性転移能が増加することを見出した。今回の検討で、導入株ではBcl2発現の増加、血漿の細胞傷害性によるapoptosisの減少などが認められ、さらに尾注後早期において肝でのviableな腫瘍細胞数は導入株で増加することなどが分かった。 3.ラット卵黄嚢睡瘍株AT-2-TCにC/EBP-βを導入した結果、AFP, ALBなどの肝特異的蛋自質の発現上昇が認められた。この発現上昇にはC/EBP-βのリン酸化が必要であった。 以上、これまでの研究で腫瘍の分化やbiologyにおけるC/EBP-βの関与が分かってきた。
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