外科切除潰瘍性大腸炎合併大腸癌(colitic cancer)およびdysplasiaを対象とした本研究により、その遺伝子異常、細胞形質変化ついて以下の結果を得た。 1.p53がん抑制遺伝子の異常は、colitic cancerの3/4、随伴するdysplasiaの4/4例で認められた。 2.Colitic cancerの5/8、dysplasiaの4/6例の細胞粘液形質はMUC2+/MUC5AC+であった。 3.Colitic cancer合併大腸粘膜では、7/9例でMUC5ACのびまん性発現がみられた。その頻度は年齢、潰瘍性大腸炎罹患期間を適合させた大腸癌非合併潰瘍性大腸炎に比べ高い傾向があった。 4.Colitic cancer5例を検討した限りでは、癌部、非癌部いずれにもMSIは認められなかった。 以上より、潰瘍性大腸炎における癌発生には以下の過程が想定された。 慢性持続性炎症→大腸陰窩stem cellの胃型(MUC5AC発現)への細胞形質転換→p53遺伝子異常→dysplasiaの発生→癌へのprogression。 Colitic cancer発生メカニズムの解明には、大腸陰窩のStem cellレベルでの細胞形質転換(胃型への転換)の背景にある遺伝子異常や分子メカニズムを明らかにする必要がある。また、潰瘍性大腸炎粘膜の胃型への細胞形質転換は、癌発生のリスクマーカーとしての意義があると考えられた。
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