研究概要 |
TGF-βは,細胞増殖や細胞外基質のリモデリングなど細胞のホメオスタシスに重要な役割を担っている.TGF-βが活性化するためには,潜在型TGF-β結合蛋白との結合が解離してTGF-β受容体と結合することが必須である.最近ではTGF-β1の活性化にαVβ6,αVβ8のインテグリンが関わっていることが明らかになった.現時点ではインテグリンによるTGF-β1の活性化がごく限られた疾患でのみ関与が指摘されているが,癌の浸潤・転移との関わりは不明である.平成17年度では,ヒト大腸癌におけるTGF-β1とTGF-β受容体の発現,さらにTGF-β1の活性化に関わっているthrombospondin(TSP)の発現状況について調べた.大腸癌の手術材料84例(男性45例、女性39例、平均68.3才)のパラフィン切片を用いた染色では,TGF-β1は34例(40.5%)が陽性で,TGF-β受容体は32例(38.1%)が陽性であった.20例では両者がともに陽性であり,有意に同時発現していた(p=0.0013).一方TSPは6例(7.1%)のみが陽性であり,TGF-β1の活性化に関与があるとは言えなかった.インテグリンβ8とTGF-β1の発現の関連性は,予想に反してインテグリンβ8が陰性の例で,特にTGF-β1が陰性になる傾向があるとは言えなかった.インテグリンαVβ6とTGF-β1とTGF-β受容体の発現,β-カテニンの発現にも関連はなかった.β-カテニンが浸潤先端部で核内集積し,かつβ8陰性の症例は,有意に臨床病期が進行しており,リンパ節転移も高頻度であったが,そのメカニズムとしてαVβ8によるTGF-β1の活性化が起こらず,TGF-β1による細胞増殖の抑制が解除されるという当初の予想を支持するものではなかった.これまでの検討では,αVβ8の発現低下と癌の転移促進を意味づけるデータは得られなかった.
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