我々はセミパラチンスク核実験周囲地域やチェルノブイリ事故汚染地域の放射線関連甲状腺癌に、散発性甲状腺癌に比べてWnt/β-catenin系の発現が亢進していることを報告している。前年度の検討では放射線関連甲状腺腫瘍のcyclin D1過剰発現とβ-catenin胞体内発現とPin1発現の相関が示唆された。さらにβ-catenin exon 3やAPC変異のない乳頭癌細胞株TPC-1にcyclin D1、β-cateninとPin1の発現があり、甲状腺癌化過程でのPin1によるcyclin D1とβ-catenin発現調節機構の関与が示唆された。 本年度は以下の点を明らかにした。 1 甲状腺癌細胞でのPin1によるWnt/β-catenin系調節機構:TPC-1と未分化癌細胞AROにPin1に特異的なshort interfering RNA s (siRNA)をlipofectamineにより導入しPin1発現を抑制した結果、β-catenin蛋白発現レベルは不変でcyclin D1蛋白発現レベルは抑制された。 2 甲状腺癌細胞におけるPin1の放射線応答機構:Pin1は放射線誘発DNA障害時、p53に結合することでその活性化とアポトーシスを促進する。TPC-1(野生型p53)とARO(変異型p53)はX線10Gy照射後2時間で、ともにcyclin D1蛋白発現レベルは減少し、アポトーシスはTPC-1に高度であった。この時免疫沈降法で、Pin1はTPC-1で活性化p53蛋白とcyclin D1との複合体を形成し、AROでは変異型p53とは複合体を形成せずcyclin D1と結合する。 以上の結果より、Pin1は甲状腺癌でcyclin Dlの正の調節因子として細胞増殖に関与すること、放射線照射時にp53やcyclin D1と複合体を形成してアポトーシスを含む細胞応答に関与することが示唆された。
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