研究概要 |
長崎大学倫理委員会の承認後、インフォームドコンセントの得られた長崎大学医学部附属病院光学診療部で胃内視鏡検査受けた患者112名を対象に、血漿、血清を採取し、グレリン、IGF-1、GH、ガストリン、ペプシノーゲンI/II、レプチンの測定を行った。また身長・体重よりBMIを求めた。内視鏡所見から、シドニー分類により粘膜萎縮を判定し、血清抗体価・呼気尿素窒素試験でH.Pyloriの同定を行った(Am J Gastroenterol 99:589-597,2004)。 H.Pylori陰性の患者の血漿グレリン値は175.4 +/- 118.6fmol/mlであったのに対して、H.Pylori陽性のグレリンレベルは99.1 +/- 44.4fmol/mlと有意に低値であった。また血漿グレリンレベルは胃粘膜萎縮度とも有意な負の相関性がみられ、ペプシノーゲン1/2比でみた胃粘膜萎縮度とも有意な相関性がみられた。さらにH.pylori陽性群では、加齢との関連性も認められた。レプチンとH.pylori感染に関しては、BMIで補正した場合有意差はなかったが胃粘膜局所ではピロリ菌陽性患者で高値を呈した。血漿ガストリン値は、H.pylori陽性者で上昇傾向にありレプチンとの相関性がみられた。H.pylori除菌治療を12名の患者で行い、除菌が成功した9名のうち3名で、グレリンは著明に増加した。一方、除菌が成功しなかった3例では、グレリンレベルは僅かに低下した(Am J Med 117:429-432,2004)。 長期的なH.pylori感染がグレリン発現に対する影響を、胃粘膜組織中のグレリンmRNA定量PCRとグレリン蛋白質定量及び血漿グレリン濃度測定を行い、胃粘膜の慢性炎症、腺管萎縮、腸上皮化生などの病理所見と比較検討した。胃組織中グレリンmRNAの量、グレリン蛋白量は、H.pylori陽性群で有意に低下していた。一方グレリン陽性細胞数は両群間で有意差はなかった。除菌成功例では、数ヶ月経つと、血中グレリンレベルが回復してくる症例が増えてくるが、H.pylori持続感染で惹起される局所炎症性サイトカインによりX/A内分泌細胞のturn-overに差があるのではなく、グレリン産生能が抑制されていることが推測された(Am J Gastroenterol 100:1711-20,2005)。
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