T細胞分化は主として胸腺で行われ、介在する胸腺間質細胞はT細胞の発達を緻密にコントロールしている。間質細胞の大部分を占める上皮細胞は胸腺全体を支持するのみならず自己抗原の提示や様々なサイトカインを分泌することによりT細胞発達に重要な役割を果たしている。しかしながら上皮細胞の機能調節機構に関しては長らく不明であった。 我々はp53転写因子ファミリーがヒト胸腺上皮細胞に特異的な分布を示すことを明らかにした。すなわち大部分の皮質上皮細胞はp63のみを発現し、髄質上皮細胞と被膜下上皮細胞はp63とp73の双方を発現する。また髄質上皮の中にはp63とp73の発現量が異なる細胞が混在している。これらの発現量の多寡が今まで観察されていた髄質上皮の多様性と一致するかどうか、またその機能的意義に大変興味が持たれる。現在までにp53ファミリーがIL-6、IL-8、GM-CSFなどの分泌調節にが関与していることを明らかにし、またp63はICAM-1のトランスアクチベーターである可能性を示唆した。さらに胸腺上皮ネットワークの形成にはタイト結合が関与し、その関連分子であるクラウディンはp63により調節され、オクルディンはp73により発現調節を受けていることを明らかにした。髄質に局在する樹状細胞もクラウディンを発現することが判明し、p53ファミリー分子はCIITAプロモーターに作用しHLAクラスII分子の発現調節を示唆するデータを得ている。 リンパ球前駆細胞は血中から胸腺内に入ると被膜下上皮細胞の近傍にホーミングし、その後皮質で発達して髄質での選択を受けて末梢へと移行する。その過程で上皮細胞はT細胞発達の場を形作り、特に髄質上皮の機能調節にはp53ファミリー分子が深く関与している事実が集積してきた。今後もこの研究を通じてヒトT細胞分化の基礎的理解を深めたい。
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