病理解剖および生検で得られた非アルコール性脂肪性肝障碍[NAFLD:非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む]、慢性C型肝炎組織を、主に免疫組織化学的に解析し、以下の所見を得た。 NAFLDにおける酸化フォスファチジルコリン(oxPC)局在の意義として、酸化傷害によるその形成が想定されたため、肝組織上で検索したところ、oxPC局在は脂肪変性ならびにアポトーシス肝細胞でしばしば観察され、酸化傷害との密接な関連性が示唆された。酸化ストレスの発生源として、好中球のミエロペルオキシダーゼなどの強力な酸化酵素のほか、血管収縮物質の関与も有力視されており、アンジオテンシンII受容体やエンドセリン系の発現を検索すると、NASH/NAFLDをはじめとして慢性肝疾患において高発現が認められ、病態への関与、特に線維化との深い関連性が示唆された(Hepatol Res.2005:J Pathol.2004)。 次にNASH肝組織に対する免疫電顕観察を行ない、oxPCは主に脂肪化肝細胞の脂肪滴や変性肝細胞の膜構造に局在していることを明らかにした。それは酸化傷害を意味するものと考えられ、oxPC陽性肝細胞にはしばしば膨化・拡張した細胞内小器官が観察された。また酸化ストレスの重要な発生源である好中球ミエロペルオキシダーゼの発現ときわめて近接して観察され、好中球由来の酸化ストレスの病態への関与が強く示唆された。 oxPCの処理機転を考えるにあたり、その取込みの受容体発現を検索した。SR-B1やCD36など、いわゆるスカベンジャー受容体がこれに相当し、NAFLDではクッパー細胞や星細胞などにおいて発現亢進の傾向がうかがわれた。さらに病態との関連性を検討したところ、肝組織の傷害・線維化過程への関与が示唆された。 以上の結果をもとに、所見を系統的にまとめ、誌上に発表した(Hepatology.2006;消化器科.2005)。 一方、C型肝炎でも、肝組織中のSR-B1発現亢進は肝内ウイルス量と密接に関連し、SR-B1はC型肝炎ウイルスのレプリケーションに何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。近年、SR-B1はC型肝炎ウイルスの細胞内への潜入を促進することが明らかとなってきており、これらの背景のもとに、上記所見を短報にまとめ、専門誌上に発表した(J Clin Virol.2005)。
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