研究概要 |
本研究は、酸化LDLの、冠動脈プラーク不安定化メカニズムへの関与、その生成機序における好中球ミエロペルオキシダーゼの役割、さらには急性冠症候群発症の予知・予防におけるその意義の解明を目標とした。研究は主として、ヒト組織材料を用いた分子病理学的な解析手法により行なわれ、以下に示す内容について検索した。 初年度(平成16年度)には、ヒト急性心筋梗塞の責任病変における酸化LDLと好中球の局在(Am Heart J.148:818-825,2004)、および活性化血小板と好中球集積の密接な関連性(Int J Mol Med.15:573-7,2005)について報告した。またヒト組織マクロファージにおける酸化LDL局在と、そのレセプター発現との関連性について解析したところ、病変部に集積したマクロファージには酸化LDLのレセプターの1つであるCD36が高発現しており、ヒト病態下における酸化LDLクリアランスへのマクロファージ・スカベンジャー受容体の関与の可能性について提言した(Lung 183:109-121,2005)。 次年度(平成17年度)は、前年度の研究成果を踏まえて、酸化LDL生成の根源である酸化ストレスに関連する諸因子について検討を進め、またその病的意義についても多角的に検索した。結果として、酸化LDLは冠動脈プラークの形成・進展・不安定化のみならずステント留置後の炎症の持続と再狭窄にも重要な役割を果たし、その予知因子となりうることを明らかにした(Arterioscler Thromb Vasc Biol 26:877-83,2006)。酸化LDLは冠動脈プラークの石灰化や血栓形成にも修飾因子として重要であり、冠動脈イベント発症との関連性が示唆された(Circulation 112 Suppl.2:U491,2005; Circulation 112 Suppl 2:U585,2005)。生活習慣病を背景とした酸化LDLやその構成成分の組織への集積は動脈硬化病巣に限った現象ではなく、脂肪肝/脂肪性肝炎でも類似の事象が観察され、それは好中球ミエロペルオキシダーゼの高発現と密接に関連していた(Hepatology 43:506-14,2006)。 生活習慣病を基盤とした酸化ストレスによる疾患の発症機序には、臓器の枠組みをこえて共通するものが存在する可能性がある。特に血管は全臓器に分布しており、その病変は全身に影響をおよぼしうるため、今後も生活習慣病を基盤とする疾患における酸化ストレスの役割について、包括的かつより詳細な検討を継続してゆきたいと考えている。
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