研究概要 |
潰瘍性大腸炎(UC)の大腸発癌に関連する粘膜のリモデリングと癌化に関与すると思われる上皮・間質細胞の遺伝子不安定性を明らかにするべく検索を行った。その結果、 1.UCの罹病期間に相関して粘膜の組織学的リモデリングが進行することが判明した。すなわち大腸粘膜腺管の短縮・傾き・融合・数の減少、粘膜筋板の肥厚が有意にみとめられ、特に癌化例では非癌化例と比較して粘膜筋板の肥厚・腺管の傾き・融合が有意に亢進していた。さらに上皮細胞の蛋白発現のリモデリングとして、Ki-67,p53,p21陽性細胞(Labeling index)が癌化例で有意に増加していた。 2.組織切片のMicrodissectionとPCR-Gene Scan法により、上皮・間質細胞を分離採取して染色体17番および腫瘍抑制遺伝子をコードしているmicrosatellite markerのmicrosatellite instability(MSI)とLoss of heterozygosity(LOH)を検索した結果、間質細胞のMSI,LOHは再生粘膜で既に比較的高い頻度で出現し、その頻度は異型粘膜、癌でもほぼ一定であった。一方、上皮細胞では再生粘膜から腫瘍性病変への進展につれてMSI・LOHとも出現頻度が有意に上昇した。 3.比較のために特発性大腸腺腫・腺癌における上皮・間質細胞の遺伝子不安定性を検索した結果、上皮細胞のMSI・LOHは腫瘍性病変の進展とともに徐々に上昇したが、間質細胞では出現頻度は比較的低いままで一定であり、UCにおける再生粘膜、腫瘍性病変とは明らかに違いがみとめられた。 以上より、UCでは反復する炎症によって、大腸粘膜腺管のリモデリングが組織・細胞・遺伝子レベルで生じており、特に腺管の融合や傾き、粘膜筋板の肥厚と間質細胞のMSI,LOH出現が上皮細胞の癌化につよく関連していることが示された。従って、炎症に伴う酸化的ストレスにより間質細胞の遺伝子不安定性が先行して、間質細胞の上皮細胞への制御不全のために上皮細胞の遺伝子異常が積み重なって癌化にいたる可能性が示唆される。
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