研究概要 |
悪性リンパ腫は臨床病態のみならず生物学的、疫学的に極めて多様性に富む腫瘍であり、その本態の解明は真に学際的な研究によってのみ可能である。本研究の目的は長期間にわたり蓄積された悪性リンパ腫症例について継続的な臨床病理学的、免疫学的および分子生物学的検討を試みることにより、診断・治療の基盤を確立することにある。また、本邦悪性リンパ腫全体の生物学的特性の解明を目指す。当該研究期間では、2003年に世界に先駆けて我々が提唱した新たな疾患概念、老人性Epstein-Barr virus(EBV)関連B細胞リンパ増殖異常症(Am J Surg Pathol 2003;27:16)に焦点を当て、本邦集学的な解析(臨床病理学的、分子生物学的、免疫学的および疫学的検討)を推し進めた。 主な項目として、老人性EBV関連B細胞リンパ増殖異常症の症例の集積を推し進めたことが特記される。全国的な症例の分布、本邦における発生頻度など疫学的なデータのためにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を中心とするB細胞増殖異常症2,000例を集積し、EBVの検索を行ない、老人性EBV関連B細胞リンパ増殖異常症と目される126例を同定した。 さらに、上記で同定された症例の臨床データの集積し、臨床経過、予後、および治療反応性を解析した。同時に、病理学的、免疫組織学的検討、またLMP1、EBNA2解析を進め、免疫不全状態を評価した。 現在、染色体分析、CGH解析、患者末梢血におけるPCRによるEBVウイルスゲノム量の測定、EBV-specific T細胞の定量のための日本人HLAに依拠したtetramer開発、ケモカイン、サイトカイン、およびそれらレセプターなどの関与の有無などの検索については、当該年度内に相当の体制の整備なしえたものと評価される。 老人性EBV関連B細胞リンパ増殖異常症は、極めて多様な臨床病態により特徴づけられ、加齢そのものに伴う免疫機能の低下が背景要因として推定される。今後、前例のない高齢化社会に向かう本邦において、発生の急速な増加が懸念される疾病と云える。ゆえにその本態の解明と診断・治療・予防法の開発は緊急の課題であり、今後、さらなる研究の最も期待される重点的な検討課題と云える。
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