研究概要 |
プリオン病における神経変性の発生機序における非受容体型チロシンキナーゼFynの役割を明らかにするために、Fyn欠損マウスにおけるプリオン病の表現型を解析した。Fyn+/+、Fyn+/-、Fyn-/-マウスはいずれも福岡1株プリオン接種後140-160日で発病し、潜伏期間に有意な差は認められなかった。3群のマウスいずれもが、典型的なプリオン病の神経障害症候を呈した。脳組織の病理学的解析では、同程度の海綿状変性が広範な灰白質領域に認めら、異常型プリオン蛋白の局在にも明瞭な差は認められなかった。生化学的には、プリオンの接種を受けていないFyn+/+、Fyn+/-、Fyn-/-マウスにおけるPrPの発現レベルに差はなく、プリオン感染した3群のマウスにおいても異常型プリオン蛋白の量に明瞭な差は認められなかった。これらのことから、Fynの発現レベルはプリオン病の病態形成に影響を与えないと考えられた。 GPIアンカー欠損プリオン蛋白発現マウスのプリオン病の解析では、GPIアンカー欠損プリオン蛋白の異常型が17,400gの遠心分離で大部分が沈渣に来ること、氷冷Triton-X 100に浮く分画には全く含まれないことが新たに明らかになった。また、GPIアンカー欠損プリオン蛋白発現マウスで増殖したプリオンは、同じ種類のマウスに継代接種した場合にはアミロイド型病変を再現するが、野生型マウスに継代接種した場合には、典型的な福岡1株によるプリオン病の病理所見(海綿状変性とシナプス型異常プリオン蛋白沈着があり、アミロイド形成を伴わない)を回復した。このことから、GPIアンカー欠損型プリオン蛋白発現マウスにおける伝搬によって福岡1株プリオンの性状は変化せず、接種をうけたマウスが発現するプリオン蛋白がGPIアンカーを持つか否かによって病理所見が決定されることが示唆された。
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