研究概要 |
1.肝傷害におけるH19遺伝子発現 (1)銅蓄積により慢性肝傷害をきたすLECラットを用い,H19遺伝子発現を検討した.LECラットでは,20週以降肝傷害が持続するが、肝傷害とともにH19遺伝子発現が著名に増強した。(2)我々は別のプロジェクトにおいて、蛋白チロシン脱リン酸化酵素阻害剤(バナジウム酸)が、四塩化炭素反復投与による慢性肝傷害を軽減することを見出しているが、バナジウム酸を投与することにより、H19遺伝子発現は抑制された。 以上の結果は、H19遺伝子が肝傷害の程度を評価するための指標となりうることを示唆している。 2.肝細胞増殖・分化とH19遺伝子発現の関連 (1)H19発現ベクター(pc3-EGFP-H19,pCAGGS-H19)をリポフェクション法でラット肝細胞に導入し、一部の細胞にH19遺伝子が高度に発現することを確認した。しかし、H19遺伝子を発現する細胞に明らかな形態的変化や増殖能の変化はみられなかった。(2)H19ノックアウトマウス(H19-KO)肝組織の構築は正常であったが、対照マウス(C57BL)に較べ、肝細胞の核は全体に大型で、形状が不揃いのものが多く見られた。70%部分肝切除後、核の腫大はさらに著名になり、胆管上皮細胞の核も強く腫大する傾向が認められた。(3)H19-KOから採取した肝細胞をEGF存在下で単層培養すると、C57BLの肝細胞とほぼ同様の時間経過で増殖マーカー(PCNA)が発現した。(4)H19-KOの肝細胞をPrimaria dish上で凝集培養し、コラーゲンゲルに包埋すると、C57BLを較べ、より強い樹枝状形態形成が起こる傾向が認められた。 以上のように、通常の培養系では、H19遺伝子が肝細胞の増殖に関与していることの直接的な証拠は得られなかったが、これを明らかにするためには、H19-KO肝および肝細胞を用いた詳細な検討が将来的に必要であると考えれられる。
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