研究概要 |
1.肝傷害におけるH19遺伝子発現 (1)四塩化炭素投与によるラット急性肝傷害に伴い,H19遺伝子発現の著明な一過性増加が認められた.発現のピークは投与後4日であり,肝細胞増殖のピークに約1日遅れていた.BrdU免疫染色とH19 in situ hybridizationの同時染色により,H19遺伝子はS期を経た肝細胞に発現することが示唆された.(2)四塩化炭素を8週間反復投与し,肝硬変状態を惹起すると,H19遺伝子が持続的に発現した.また四塩化炭素に較べ,肝傷害が持続するdimethylnitrosamineを投与するとH19 mRNAが長期間にわたり増加した.また,銅蓄積により慢性肝傷害をきたすLECラットや総胆管結紮モデルでも,H19遺伝子が持続的に発現した. 以上の結果は,H19遺伝子が肝傷害の指標となりうることを示唆している. 2.肝細胞増殖・分化とH19遺伝子発現の関連 (1)H19発現ベクター(pc3GF-H19)をリポフェクション法でラット肝細胞に導入したが,H19発現細胞に明らかな形態学的変化はみられなかった.(2)H19ノックアウトマウス(H19KO)肝組織の構築は正常であったが,対照マウス(C57BL)に較べ,肝細胞の核は全体に大型で,クロマチンが粗いものが多かった.70%部分肝切除後,核の腫大はさらに著明になり,胆管上皮細胞の核も強く腫大していた.(3)H19-KOから採取した肝細胞をEGF存在下で単層培養すると,C57BLの肝細胞とほぼ同様の時間経過で増殖マーカー(PCNA)が発現した.(4)H19KOの肝細胞を凝集培養し,コラーゲンゲルに包埋すると,C57BLとほぼ同様の胆管様樹枝状形態形成が認められた. H19遺伝子が肝細胞の増殖や分化に関与していることの直接的な証拠は得られなかったが,これを明らかにするためには,H19KO肝および肝細胞を用いた詳細な検討が将来的に必要である.
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