胸腺がT細胞免疫系の形成において重要な役割を果たしているが、胸腺は思春期を過ぎる頃から形態的に萎縮が進み、機能的にはもっと早く、幼少児の頃から機能低下が始まり、加齢に伴う免疫機能の低下の主因となっている。 本研究は、胸腺微少環境側におけるT細胞の増殖・分化に関わり、加齢と共に機能低下する因子を同定し、胸腺の再構築とT細胞が増殖・分化を促し免疫系の改良システムを確立する事を目的とする。 本年度の成果として、 (1)DNA-array解析:胎生期の胸腺における未熟胸腺細胞の増殖・分化を抑制するビスフェノールAを高酸素胎仔胸腺細胞器官培養系に添加し得られた胸腺ストローマより調整したRNAを用い解析した結果、対照群に比較し強発現を示した遺伝子の中には、胎生、新生仔期胸膜ストローマよりアダルト、老齢胸膜ストローマに強発現する10種類の遺伝子が確認出来た。 (2)胸腺上皮培養細胞株を用いた3次元構築の試み:培養系での骨形成に用いられている3Dスキャフォールドを利用し各種胸腺上皮細胞株の培養を試みたが、単独での培養では効率の良い胸腺上皮細胞株の増殖が認められず、添加した未熟胸腺リンパ球の増殖・分化を確認する事が出来なかった。 (3)腎臓皮膜下への胸腺上皮培養細胞株の移植と未熟胸腺リンパ球の増殖・分化の試み:(2)の結果より3次元構築された細胞群を移植する事はできなかった。胸腺上皮培養細胞株の単独あるいは混合移植での胸腺微小環境の構築はみられなかった。 これらの結果より、今年度の目的であった胸腺再構築には至らなかったが、 胸腺微小環境内での未熟胸腺リンパ球の増殖・分化に関与する遺伝子が老齢胸腺微小環境内で強発現を示す事、胸腺上皮培養細胞株のみではin vitro、in vivoでの胸腺構築が出来ず、本来の胸腺を構成している樹状細胞などの混合培養、あるいは増殖・分化に関わる遺伝子からのタンパク合成を含め考慮に入れ胸腺再構築とT細胞免疫系の改善を目的とする本研究を遂行せねばならぬ事が示された。
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