私達はラット腎移植モデルを用いてHGFが腎移植後の虚血再灌流傷害を抑制するとともに『免疫寛容』を誘導し、慢性拒絶反応の発症を阻止することを報告した。そこで本年度は腎虚血再灌流傷害のモデルを用い、虚血再灌流傷害の初期病態とされる血管内皮傷害に中心的な役割を担う好中球の動態と血管内皮バリアー機構に着目した。 腎虚血のマウスにおいて虚血-再灌流後3時間目で既にICAM-1の発現が間質小血管の内皮に沿って連続的に観察された。一方、HGF投与群ではこのようなICAM-1発現は弱くその分布も断続的であった。ICAM-1発現の抑制に一致して血管内皮に接着する好中球の数もHGF投与群で減少していた。さらにTUNEL染色を用いて血管内皮でのアポトーシス陽性細胞を数えてみると、HGF群では有意に減少していた。これにともなって血管バリアーの破綻を反映する血管水腫形成はHGFによって抑制された。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の培養系ではTNF-α刺激後3時間目よりICAM-1蛋白の発現が検出できることがウエスタンブロット解析によって確認された。一方、この系にHGFを添加したところ、その用量に依存してICAM-1の発現が抑制されることが明らかとなった。このようなHGFによる虚血後の血管傷害の抑制に一致して尿細管間質における好中球、マクロファージおよびCD4+/CD8+細胞の浸潤が虚血-再灌流後の既に3時間目からHGF投与群で抑制されていた。さらにHGFは尿細管上皮の脱落、アポトーシス発症を阻止するとともに、高窒素血症で見た腎不全の発症を抑制するすることが実証された。 以上の結果から、HGFは血管内皮傷害の抑制と細胞接着分子の発現阻害を介して白血球浸潤を抑制し、拒絶反応の引き金と成る虚血再灌流傷害を抑制している可能性が示唆された。
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