P130Cas(Cas)は癌遺伝子v-Srcおよびv-Crkにより形質転換した繊維芽細胞において高いチロシンリン酸化を受ける130Kdの蛋白質として我々がクローニングした新規アダプター分子である。CasはN末端に1つのSH(src homology)3を持ち、それに引き続いてSH2結合モチーフを繰り返す領域、およびプロリンに富む領域から成る構造を持ち、これらの機能ドメインを介して細胞内情報伝達に関与していると考えらる。我々はCasの生物学的機能を明らかにする目的でCasのノックアウトマウス(Cas-/-)を作製した。Cas-/-は胎性12.5日で心臓の低形成、全身のうっ血、および成長障害を呈して死亡した。Cas-/-の心筋細胞では筋アクチン線維の形成不全が認められ、またCas-/-の線維芽細胞ではactin stress fiberの形成障害が認められた。更に、活性型Srcを導入してもCas-/-繊維芽細胞は形質転換を示さず、アクチン繊維の接着班への集合障害が観察された。これらの結果はCasの生物学的作用はアクチン線維の束状形成であり、Cas-/-胎児は心筋および血管平滑筋の収縮障害による循環不全により死亡し、Cas-/-繊維芽細胞はactin繊維の接着班への凝集が不十分であるためSrcによる形質転換に抵抗性であると考えられた。しかし、Cas-/-は胎生致死となってしまうため、Casが成体の様々な組織においてどの様な機能を果たしているかは未だに不明のままである。この問題を解決する目的で、我々はCasのコンディショナルノックアウトマウスの作製を行った。CasのSH3およびSH2結合モチーフを4回含むexon2をloxPで挟んだターゲッティングベクターを作製し、ES細胞で相同組み換えクローンを同定し、キメラマウス・ヘテロマウスを経てホモマウスを作製した。現在このマウスに様々な組織でCreを発現するマウスを掛け合わせ組織特異的にCasを欠損したマウスを作製し、表現型の解析を行っている。
|