研究概要 |
実験動物、特にげっ歯類における若年時からの適度のカロリー制限(CR)は、様々な加齢現象や疾患の発症を抑制、寿命を延長するが、このメカニズムは未だ解明されていない。しかし、このCRの作用に、成長ホルモン/インシュリン様成長因子(GH/IGF-1)/インシュリンシグナルの重要性が注目されている。また、近年、白色脂肪組織やそこから分泌される様々な因子(アディポサイトカイン)が、インシュリン抵抗性、2型糖尿病およびその合併症の発症さらに寿命の制御に重要な働きを示す事が示唆されている。我々は、CRした野生型Wistar(-/-)ラット(CR)やGHに対するアンチセンス遺伝子を導入し、下垂体でのGHの産生を選択的に抑制した6カ月齢のヘテロのdwarf形質を示すトランスジェニックミニラット(tg/-,DF)が長寿を示し、インシュリン感受性が増強している事を明らかにした。そこで、CRおよびDFラットの様々なパラメーターやDNA chipを用いたWATの遺伝子発現プロフィールを網羅的に解析し、コントロールである野生型ラット(-/-)自由摂食群(AL)と比較する事により、インシュリン抵抗性や2型糖尿病、その合併症発症の予防さらに寿命の制御に重要な役割を果たす、遺伝子群の同定を試みた。血中インシュリン、IGF-1レベル、レプチンレベルおよび精巣上体周囲脂肪組織(WAT)でのレプチンmRNAレベルは、DFおよびCRにより有意に減少した。一方、血中アディポネクチンレベルおよびWATでのアディポネクチンmRNAレベルはDFおよびCRにより有意に増加した。さらに、上記3群のラットのWATでの3万個を超える遺伝子発現を、Affymetrix社製のDNA chipを用いて、網羅的に解析した。すると、CRにより2.7%(672個)、DRにより0.84%(210個)の遺伝子発現が有意に変化していた。そのうち共通に変化する遺伝子はわずか0.1%(34個)しかなく、CRにより誘導されるこの遺伝子発現の変化は、DFすなわちGH/IGF-1非依存性に制御されていることが明らかとなった。またマウスと同様、CRにより代謝に関わる多くの遺伝子発現は増加し、細胞骨格や細胞外基質、炎症に関わる多くの遺伝子発現は減少していた。さらにWebツールを用いてCRにより発現が変化した遺伝子群の転写開始点近傍に存在する転写因子結合モチーフを検索したところ、CRにより発現が増加した遺伝子の転写開始点近傍にSREBP1結合モチーフが存在する割合が高い事が明らかとなった。またWestern blot法を用いて、白色脂肪組織でのSREBP1タンパク量を定量したところ、CRによりSREBP1は増加していたが、DFではSTREBP1の増加は見られなかった。以上より、抗肥満でインシュリン高感受性であるCRの白色脂肪組織の特徴的な表現型の一部は、SREBP1およびその標的遺伝子群により、GH/IGF-1非依存性に制御されている可能性が示唆された。
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