研究概要 |
黄色ブドウ球菌感染症の病態を解明するために、本菌が産生・放出するシステインプロテアーゼstaphopains (ScpA, SspB)に注目し、その病原作用を調べた。培養上清から精製したScpAは、モルモット皮内に注射すると酵素活性依存性に血管透過性亢進(VPE)を誘導した。ScpAのこの作用は強力な血管透過性亢進ペプチドbradykinin (BK)より急峻な増加と広い範囲への拡散を示し、BK-B_2リセプター拮抗剤HOE140で抑制された。一方、SspB自身はVPE活性を持たないがScpAのVPE活性を亢進した。ScpAは正常ヒト血漿やXII因子欠損血漿およびプレカリクレイン欠損血漿からもVPE活性を産生しSspB共存で活性産生亢進したが、キニノーゲン欠損血漿からは活性を産生しなかった。精製ヒト高分子および低分子キニノーゲンの両者からScpAはVPE活性を産生し、しかもこの作用はSspBによって増強された。高分子キニノーゲンからScpBが産生するVPE活性ペプチドを分離しアミノ酸配列を調べるとこれはBKそのものであった。一方、両者共存によってキニノーゲンから産生されるVPE活性ペプチドとして、BKの他に新たにLeu-Met-Lys-BK (LMK-BK)が見い出された。LMK-BKはBKに匹敵するVPE活性を発揮し、その活性はBKと同様にHOE140で抑制された。ScpA、BK、LMK-BKはモルモットに静注すると血圧低下を引き起こし、この作用はHOE140で抑制された。 以上の結果から、本プロテアーゼの持つVPE作用は、黄色ブドウ球菌感染巣での浮腫や敗血性ショックに関わっている可能性が示された。これは本菌の新たな病原作用の機序を明らかにするのみならず、細菌プロテアーゼしかも2種の協同作用による新たなキニン産生を提示する。さらに、プロテアーゼに特異的なインヒビターやBK-B_2リセプター拮抗剤が治療薬として黄色ブドウ球菌感染症、特に抗生物質抵抗性のMRSA病態の改善に有効であることを示唆する。
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