研究概要 |
上皮が生体内外の異なる環境を分けて恒常性を維持するためには、細胞極性とタイト結合とよばれる細胞間接着装置の形成が必須である。これまでに多くのタイト結合構成分子が同定され、それらの相互作用については明らかになりつつあるが、上皮極性とタイト結合の形成を誘導する因子についてはよく分かっていない。マウスF9細胞株は、未分化細胞から、細胞間接着装置や細胞極性が発達した上皮細胞に分化させることができ、上皮分化や極性形成の分子機構を解析する上で極めて有用な系である。我々は、このF9細胞株に着目し、多数の遺伝子の導入・ノックアウトや遺伝子発現の厳密な制御ができるコンディショナルシステムを確立している。そこでこの系を用いて、核内ステロイド受容体ファミリーに属するレチノイド受容体とhepatocyte nuclear factor(HNF)-4αが、タイト結合膜貫通分子occludin, claudin-6,claudin-7,JAM-Aの遺伝子発現と、上皮細胞の細胞間接着装置と極性の形成を誘導することを明らかにした。またHNF-4αが、レチノイド受容体やビタミンD受容体と同様に、p21^<waf1/Cip1>の遺伝子発現を誘導して細胞増殖を抑制することを見出した。HNF-4αは肝細胞のみならず、腎、膵、腸、胃などの腺上皮細胞に発現しており、これらの上皮細胞の分化、極性形成、細胞増殖を制御している可能性が考えられる。
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