上皮や血管内皮細胞間をシールするタイト結合は、細胞間隙における分子通過を制御する生体バリアとして働くとともに、細胞極性を規定している。また、タイト結合の機能破綻は、炎症性腸疾患、浮腫、癌など様々な病態の原因や修飾因子となると考えられている。近年多くのタイト結合分子や極性制御分子が同定されているが、どのようなシグナルによって生体バリアや細胞極性が制御されるかは不明であった。 我々は、非上皮から上皮へ分化誘導できるマウスF9細胞株に着目し、多数の遺伝子の導入・ノックアウトや、遺伝子発現の厳密な制御ができるコンディショナルシステムを確立している。そこでこの系を用いて、核内ステロイド受容体スーパーファミリーに属するレチノイド受容体とhepatocyte nuclear factor (HNF)-4αがタイト結合分子の発現を誘導するとともに、様々な細胞間接着分子と極性制御分子の細胞内局在をダイナミックに変化させて、生体バリアや上皮極性を獲得させることを明らかにした。また、HNF-4αがレチノイド受容体やビタミンD受容体と同様に、サイクリン依存性キナーゼインヒビターであるp21^<WafI/Cip1>の発現を誘導して細胞増殖を抑制することを見出した。 一方我々は、血液脳関門を構成する血管内皮細胞を分離培養する方法を確立し、肺血管内皮細胞株において遺伝子発現誘導系を樹立した。これらの培養系を用いて、プロテインキナーゼAとMAPキナーゼが各々claudin-5とclaudin-1を標的として内皮バリアを制御することを見出した。また、ギャップ結合チャネルを通る情報伝達分子が内皮バリアを制御する可能性を示した。 これらの知見は、「生体バリアの形成と制御の分子機構」の解明に寄与し、生体バリアの機能破綻が関与する疾患の病態把握や新しい分子標的の探索に役立つことが期待される。
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