これまで前立腺がんが産生するPSAにより、造骨性転移を来すことを明らかにしてきたが、本年度はPSAによる1)造骨性機構と2)骨内における増殖因子活性化機構について実験を行った。1)PSAの造骨性機構への関わりについて、PSA産生前立腺がん細胞のPSA産生阻害を行うまたはセリンプロテアーゼ阻害剤をもちいて、骨芽細胞の増殖や破骨細胞のアポトーシスに関わるかを検討した。PSA産生前立腺がん細胞株LNCaP細胞にPSA遺伝子に対するsiRNA法を用いてPSA産生を阻害し、ヒト骨芽細胞の増殖や破骨細胞のアポトーシスに関わる影響を動物モデルを用いて検討した。癌細胞産生PSA産生は全体の50%程度減少した。しかし、移植ヒト成人骨における骨新生は必ずしも有意な差が出なかった。一方、セリンプロテアーゼ阻害剤を用いた検討ではPSAの骨新生作用は有意に抑制された。この結果より、siRNA法による一時的なPSA産生抑制は3日をピークに減少することより、動物実験におけるPSAの作用を検索するには適さない可能性が示された。2)骨内に貯蔵されているIGFはIGF-binding protein5と結合しているが、PSAはこのIGF-binding protein5を分解し、骨内環境においてIGFを活性化することを示した。また、前立腺がんだけでなく、多発性骨髄腫、乳がんの骨転移においても骨内のIGFが重要な役割を果たしていることが示した。以上の結果は、これまで腫瘍マーカーとして考えられていたPSAは癌で産生されることより、精液内に分泌されていたセリンプロテアーゼが腫瘍細胞の周囲に分泌され、骨において腫瘍細胞周囲の骨内に蓄積されているIGFを活性化しがん細胞の生存に利用している事を明らかにした。
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