研究概要 |
近年、RNAの構造を変える酵素群RNAヘリカーゼ(2本鎖高次構造を1本鎖mRNAに巻き戻す)がウィルスからヒトに至る多くの生物でDEAD(Asp-Glu-Ala-Asp)ボックス蛋白として発見されてきた。各々のヘリカーゼはmRNAのスプライシング、翻訳、そしてリボソームの合成など多彩な機能を持っており、どのように作用すべきRNA分子を認識しているのか、どのようなRNAを基質としているのかは今後の課題である。最近の研究から外的刺激に対する即答遺伝子は転写後の翻訳レベルで制御されていることが明らかになり、この過程の脱制御と疾患との関連が注目されている。我々は、1992年、t(11;14)(q23;q32)転座(B細胞悪性リンパ腫の5%)を有するB細胞リンパ腫株より、11q23に局在する転座標的遺伝子RCKを世界に先駆け見い出した(Cancer Res. 1991,1992)。RCKcDNA塩基配列のホモロジー検索でDEADボックス蛋白(RNA helicase family)であることが示された。我々はRCK遺伝子がヒト癌細胞株の多くで高発現していることを報告してきた。免疫グロブリン重鎖遺伝子との転座によりRCK遺伝子発現が脱制御され、過剰発現することが腫瘍化に関連することが明らかになった。癌では高率にrck/p54蛋白の過剰発現を認めている。大腸腺腫ではrck/p54とc-myc蛋白が共高発現していることを見い出した。さらにヒト大腸癌細胞株にRCK遺伝子を導入し、rck/p54を高発現させるとc-myc mRNAの翻訳効率を上げ、c-myc蛋白の合成を促進させることが明らかになった。この蛋白(rck/p54)はATP依存的なRNA unwindase活性を有し、細胞周期に関わる遺伝子の発現効率を調節することにより細胞増殖に関与していることが示唆された。その機序としてRNA-decay、さらに最もよく知られている翻訳開始機構に関わるRNAヘリカーゼeIF4Aと非翻訳領域5'cap構造に特異的に結合するeIF4Eが遂行する同機構にrck/p54が何らかの修飾を与えることによるが明らかになった(Int.J Oncol, in press)。さらにRCK遺伝子の発現量を上げたり、RNA干渉により下げてもいずれの場合も細胞の増殖に対しては抑制的に働くことがわかり、RCK遺伝子の適当量な発現ががん細胞の増殖に重要であることが示された
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