近年、Helicobacter pylori (H.pylori)感染が、慢性胃炎、腸上皮化生、胃がんの発生に大きく関わっていることが解明されてきたが、H.pylori感染による胃粘膜上皮の遺伝子変異に関する知見は、ほとんど得られていない。そこで、遺伝的情報および背景が知られているgptΔトランスジェニック(Tg)マウス(C57BL/6Jバックグラウンド)を8群に分け、A群(コントロール)、B群(MNU投与)、C群(H.pylori[SS1 strain]感染)、D群(N-methyl-N-nitrosourea[MNU]+H.pylori)、E群(高食塩食)、F群(MNU+高食塩食)、G群(H.pylori感染+高食塩食)、H群(MNU+H.pylori感染+高食塩食)とした。短期屠殺群(実験11週)では、いずれも組織学的な炎症所見は軽度であったが、G群で高食塩食による抗H.pylori抗体価の上昇が認められた。H群では、MNU投与による免疫系の障害のため、抗体価はG群より低値であったが、B、D、F群より高値であった。長期群では、F群と比較してH群で途中死亡が多く、H.pylori感染とそれに伴う炎症が、胃粘膜のみならず、全身のMNUによる障害を増強する可能性が示唆された。 近年、ヒト胃がんは胃と腸の両方の分化を示し、大腸がんで高率に変異の見られるβ-cateninの変異が胃がん発生の後期に見られることを証明してきた。すでに作成したマウス胃がんにおいて、β-cateninの局在を免疫組織学的に検討したところ、腫瘍の一部で、β-cateninが核に集積している箇所が見られ、Wntシグナル系の活性化が胃がん進展に関わる遺伝子変異のひとつと考えられた。
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