本年度はGFP遺伝子を導入して作成した種々の胃癌・大腸癌の腹膜転移モデルと各種ノックアウトマウス等を用いて腹膜転移のin vivoにおける発育・進展過程を解析し、以下の諸点を明らかにした。1)糖鎖被覆リポゾーム(ローダミン標識)を腹腔内接種するとマクロファージに取り込まれ大網の節外リンパ組織である乳斑にホーミングする。この性質を利用して、GFP導入胃癌腹膜転移細胞が乳斑に一致して微小転移巣を形成すること、すなわち初期転移巣が組織特異的であることを蛍光2重染色法により明らかにした。2)大網乳斑の構成細胞と考えられるγδT細胞やそれらのエフェクター分子であるTNF-αなどのサイトカインを欠失したノックアウトマウスを用いて、同系マウス(C57BL)由来のGFP-遺伝子導入Lewis肺癌細胞の腹膜転移の初期・進展過程に及ぼす両分子の役割を検討した。その結果、TNF-αノックアウトマウスにおいて初期転移巣形成率が低い傾向が見られると共に、組織学的に腹壁腹膜や横隔膜など乳斑の存在しない腹腔内組織への播種性進展が抑制され、また生存日数の有意な延長が認められたことから、炎症性サイトカインであるTNF-αが腹膜転移促進に重要な関与をすることが明らかになった。3)大腸癌は胃癌と異なり、腹膜転移をきたしにくい。この機構を明らかにすることは胃癌の腹膜転移に対する全く新しい治療法の開発に繋がる可能性がある。腹膜転移性胃癌細胞株(MKN-45)と大腸癌由来で腹膜にドーマントな転移しか形成しない細胞株(COLM-2)を用いて両者の差異について検討した。胃癌細胞株と大腸癌細胞株の皮下腫瘍の発育に差は認められなかったが、腹膜転移では大腸癌の腫瘍重量は胃癌の1/10以下であった。また組織学的に大腸癌の腹膜転移巣ではアポトーシスと炎症細胞浸潤の亢進および繊維化などの変化が認められ、大腸癌腹膜転移のドーマンシーと炎症とが間連する可能性が示唆された。
|