本年度はGFP遺伝子導入ヒト胃癌・大腸癌のヌードマウス腹膜転移モデルおよびノックアウト(KO)マウスモデルを用いて腹膜転移のin vivoにおける発育・進展過程を解析し、以下の諸点を明らかにした。1)胃癌細胞株の腹腔内接種後に大網乳斑に生着した微小転移巣ではDay3から血管新生が始まりDay7でほぼ完成することがCD31の免疫染色から判明した。ヒト化抗VEGF抗体であるBevacizumabの早期腹腔内投与によりこの血管新生は阻害され、微小転移の発育が有意に抑制され、生存延長も認められた。2)TNF-αKOマウスにおいては野生型マウスに比べ、マウスLewis肺癌細胞の腹腔内初期生着および増殖に有意な変化は認められなかったが、腹壁腹膜などへの播種性進展が抑制され、その結果生存日数の有意な延長が認められた。この播種性進展の抑制は野生型マウスの骨髄を移植したキメラマウスにおいて解除されたことから、腹腔炎症細胞の分泌するTNF-αが腹膜播種性進展に重要な関与をすることが明らかになった。またヒト胃癌腹膜転移モデルにおいてもヒト化抗TNF-α抗体の腹腔内投与により腹膜播種性進展が有意に抑制され、癌細胞自身のTNF-αも播種性進展に関与する可能性が示唆された。3)ヒト大腸癌腹腔洗浄液中の遊離癌細胞を定量CEA RT-PCR法で検討した。その結果、大腸癌患者でも胃癌と同程度に腹腔内に癌細胞が遊離していること、しかし大腸癌ではこれが腹膜再発に結びつかないことが判明した。大腸癌細胞が胃癌細胞に比べ腹膜転移能が低い可能性が示唆されたことから胃癌細胞株(MKN-45)と大腸癌細胞株(COLM-2)を用いて両者の腹膜転移能の差異について検討したところ、大腸癌の腹膜転移重量は胃癌の1/10以下であり、腹膜転移能が低いことが判明した。以上の結果は消化器癌の腹膜転移の発生・進展には癌細胞自身の転移能と血管新生や炎症細胞など宿主側の要因がともに重要であることを示唆している。
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