胃癌の腹膜転移は根治手術後の再発様式の半数以上を占め、最も重要な予後因子である。本研究(平成16-17年度)はこの腹膜再発の予防をめざし、腹膜転移の初期過程である微小転移形成とその後の播種性進展の分子基盤を解明し、それに基づく新しい治療法を開発することを目標とする。期間内に以下の諸点を明らかにした。1)糖鎖被覆リボゾーム(ローダミン標識)およびGFP導入胃癌腹膜転移細胞の腹腔内接種(蛍光2重標識法)により胃癌の初期(微小)転移巣が大網などに存在する小節外リンパ組織である乳斑に選択的に形成されること、2)大網乳斑に生着した胃癌細胞の微小転移巣における発育に及ぼす血管新生の役割をCD31の免疫染色により検討し、血管新生はDay3から始まりDay7でほぼ完成するが、ヒト化抗VEGF抗体の早期腹腔内投与によりこの血管新生は阻害され、微小転移の発育が有意に抑制されること、3)微小転移形成はTNF-αノックアウトマウスにおいて阻害されないが、腹壁腹膜など乳斑の存在しない腹腔内臓器への播種性進展が顕著に抑制され、腹水貯留や生存日数の有意な延長が認められること、4)このKOマウスにおける播種性進展の抑制は野生型マウスの骨髄を移植したキメラマウスにおいて解除されることなどを見出し、腹腔炎症細胞の分泌するTNF-αが腹膜播種性進展に重要な関与をすることを明らかにした。さらに5)ヒト胃癌腹膜転移モデルにおいてもヒト化抗TNF-α抗体の腹腔内投与により腹膜播種性進展が有意に抑制され、癌細胞自身のTNF-αも播種性進展に関与する可能性を示唆した。 以上の結果は胃癌の腹膜転移の発生・進展には癌細胞自身の増殖能や転移能と並んで、血管新生や炎症細胞に由来するサイトカイン(TNF-α)など宿主側の要因が重要であることを強く示唆している。これらの知見にもとづき、現在、糖鎖被覆リボゾームを用いた腹膜微小転移巣に特異的に抗がん剤を送達できるドラッグデリバリーシステムの構築や、抗VEGF抗体や抗TNF-α抗体を用いた播種性進展抑制法の開発を推し進めている。
|