本研究では、ブタ回虫性脊髄炎型のメカニズムを明らかにするために、ブタ回虫から中性、両性、極性、酸性糖脂質画分を分離抽出し、患者の血清、脳脊髄液中に含まれる各分画に対する免疫グロブリンをELISA法にて測定した。脊髄炎型患者血清、髄液中には中性、両性、極性糖脂質抗原に対して高いIgG抗体価が検出され、そのIgG subclassはIgG1であった。次に、患者血清を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)immunostainingによる解析を行った結果、脊髄炎型では中性、両性糖脂質抗原に共通の糖鎖構造がB細胞認識エピトープとなっていることが示唆された。さらに両性糖脂質画分をフッ化水素処理することにより脱PC(ホスホリルコリン)化した糖脂質との脊髄炎患者髄液の反応性の結果から、患者B細胞の認識エピトープの構造はGalβ1-6Galα1-3GalNAcβ1-4(PC-6)GlcNa1-3Manβ1-4Glcβ1-Cerのポリサッカライド糖鎖構造と考えられた。また、このようなブタ回虫糖脂質抗原に対するIgG反応は、臨床症状の悪化(増悪/再発)に伴い上昇すること、さらに一部の患者グループでは髄液でのみ顕著なIgG反応の上昇が認められることが明らかとなった。また、ウシの脳由来の糖脂質であるガラクトセレブロシド、ガングリオシド、スルファチドに対するIgG抗体価の有無をELISA法にて検討したが、患者髄液中には有意な抗体価は検出されなかった。これらの解析結果は、ブタ回虫性脊髄炎の発症には、回虫幼虫の中枢神経系内への直接浸潤と、それに伴う感染局所(中枢神経系内)での宿主免疫応答が関与している可能性を示唆する。今後、宿主免疫応答の標的となっているT細胞抗原エピトープの解析や、サイトカイン産生誘導、Th2への誘導などの宿主免疫応答にブタ回虫由来抗原が果たす役割を動物モデル等を用いてさらに検討していく予定である。
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