中南米の風土病であるシャーガス病の病原細胞内寄生原虫、Trypanosoma cruziの感染実験モデルを利用して好適なT細胞ワクチン手法を検索する試みは、現在組換えウイルスベクターの免疫原性の検討を続行中である。H-2^b拘束性にCD8陽性T細胞の誘導を促す配列、ANYNFTLVを挿入した組換えアデノウイルス、組換えワクシニアウイルスを作製後、両ウイルスベクターでマウスを免疫し、生体での抗原特異的CD8陽性T細胞の誘導を確認した。さらに、両ウイルスベクターおよびDNAワクチンとの組合せ免疫を施行した結果、アデノウイルスベクターはプライミング能力に優れ、ワクシニアウイルスはブースターとしての能力に秀でているという免疫学的性状を明らかにした。感染制御には、CD8陽性T細胞の量的な誘導が欠かせないことから、免疫量の増量、アジュバントの使用というふたつの側面から免疫条件の改善を試みた。アジュバントとして着目した手法が、TNFスーパーファミリー蛋白質に属するRANK-L遺伝子の使用である。Genetic adjuvantとしてCD8陽性T細胞の誘導増強能を有するこの遺伝子を、RANK-L遺伝子のDNA調製はしばしば困難であることから、組換えウイルスベクターの形で使用することを検討した。ウイルスベクターの免疫量の増量、またRANK-L遺伝子を組み込んだ組換えワクシニアウイルスベクターのアジュバントとしての使用を組み合わせることで、抗原特異的CD8陽性T細胞の誘導増強を確認した。最後に、これら組換えウイルスベクターの使用によりT.cruzi感染症の感染制御が可能である予備的結果が得られており、CD8陽性T細胞の単一エピトープに対する免疫応答を誘導するだけで、その感染制御が可能であることを初めて証明した。
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