マラリアによる死者は世界で年間約300万人と推定されているが、ワクチンはまだ実用化されておらず、薬剤耐性マラリアの拡散も問題になっている。本研究では、熱帯熱マラリアの治療や予防に応用できるヒトモノクローナル抗体の作製をめざした。熱帯熱マラリア患者の末梢リンパ球に由来する抗体遺伝子ライブラリーを作製し、Fab抗体を大腸菌で発現させた。それをスクリーニングして3種類の抗熱帯熱マラリア原虫抗体(Pf25、Pf143、Pf227)を得た。いずれのFab抗体もmerozoite surface protein-1のC末端側19-kDa蛋白質(MSP-1_<19>)を認識していることをELISAで確認した。抗体遺伝子の塩基配列を解析した結果、Pf25とPf227のH鎖germlineは共に、V領域がVH1-8、D領域がD3-10、J領域がJH4であり、Pf143のH鎖germlineはVH7-81、D3-10、JH5の組み合わせであった。一方、L鎖V、J領域のgermlineは、Pf25がA27とJκ5、Pf143がA27とJκ2、Pf227がA27とJκ4であった。3種類のFabについて、MSP-1_<19>に対する親和性を表面プラズモン共鳴法によって解析した。解離定数は、Pf25が1.09×10^<-9>M、Pf143が1.71×10^<-9>M、Pf227が2.66×10^<-9>Mであった。最も親和性の高かったPf25について、熱帯熱マラリア原虫に対する増殖抑制効果をin vitro系で検討したが、有意な抑制効果は認められなかった。本研究において、増殖抑制活性は確認できなかったものの、熱帯熱マラリア原虫MSP-1_<19>を認識するヒトモノクローナル抗体を大腸菌で初めて作製することができた。また、MSP-1_<19>を認識するヒト免疫グロブリンの遺伝子構成を初めて明らかにした。今後、更にスクリーニングを継続することで、増殖抑制活性のあるヒト抗体のクローニングも可能であると考えられる。
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