Entamoebaの脱嚢・発育にprotein kinaseC (PKC)及びphosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)の関与ならびにアクチン細胞骨格再構成が起こることを先に明らかにしたが、情報伝達系でこれらの分子の上流に位置し、機能制御するのがRasスーパーファミリー低分子量Gタンパク質(Ras small GTPase)である。その機能発現にはプレニル化と呼ばれる翻訳後脂質修飾が必須であり、この修飾にはファルネシル化とゲラニルゲラニル化があり、ファルネシル転移酵素(FT)、ゲラニルゲラニル転移酵素I型(GGT-I)およびII型によって触媒される。これらの酵素はαおよびBサブユニットからなり、FTとGGT-Iのαサブユニットは同一であることが知られている。FTの1次構造および組換え酵素の性状については先に明らかにした。今回は、赤痢アメーバ(Eh)のGGT-I (EhGGT-I)について解析した。クローニングしたEhGGT-Iの6サブユニットは337アミノ酸からなり、他種生物との相同性は22〜30%と低かった。大腸菌で発現させた組換え酵素は38kDと35kDの複合体として得られた。抗EhGGT-I血清はEhGGT-Iと反応したが、ラットGGT-Iとは反応せず、抗原性の違いが認められた。ラットGGT-Iが、ヒトH-Ras-CVLSを基質とせず、変異体H-Ras-CVLLのみを基質としたのに対し、EhGGT-Iは両方を基質とした。また、EhFTはEhRas-CVVAのみしか基質としなかったのに対し、EhGGT-Iは広い基質特異性を示し、Racばかりでなく、Rasも基質とすることが明らかになった。哺乳類のGGT-I阻害剤に対する感受性も、EhGGT-IはラットGGT-Iに比べて著しく低く、抵抗性であった。以上の結果から、赤痢アメーバと高等生物GGT-Iの構造的ならびに生化学的性状の相違が明らかになった。
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