劇症型レンサ球菌感染症発症には、菌が産生する毒素が重要な役割を果たす。毒素産生の機序について様々な角度から解析を行った。 1.A群レンサ球菌の代表的な発現制御因子mgaの近傍に位置するmga-associated geneのノックアウト株を樹立した。Sicの発現の亢進が二次元電気泳動とノザン法にて確認された。ゲルシフト法にてプロモーターへのMgaの結合に関与する可能性が示唆された。 2.転写終結関連遺伝子nusGノックアウト株を樹立した。二次元電気泳動法によりNga蛋白質(Nga)、ストレプトリジン0(Slo)、Sic蛋白質の増加が認められ、ノザン法においても同様の結果が確認された。 3.劇症型レンサ球菌感染症において使用が推奨されているクリンダマイシンの効果を検討した。クリンダマイシン存在下で菌の分泌蛋白質の多くは減少したが、Nga、Slo、Sicが逆に増加した。その作用は菌のどの増殖時期に抗生物質を投与するかによって大きく影響された。毒素発現変化のメカニズムにNusG、二成分制御因子CsrSの関与が示唆された。 4.signal peptidaseをコードする3つの遺伝子SPy0127、sipCおよびlspのノックアウト株を作製し、上清蛋白質を二次元電気泳動により解析した。LspはSec pathwayに深く関与、すなわちシグナル配列を認識し、作用すると考えられたがSipCは異なる役割を担っていることが示唆された。しかしながら両者がともに関与すると考えられる毒素の存在も明らかとなった。 5.劇症型感染症の頻度が高いM1株において、分泌毒素蛋白質プロファイルが複数存在し、それが二成分制御因子CsrSのアミノ酸変異が関与していることを、分離時期の異なる種々の臨床分離株の塩基配列の検討と、ノックアウト変異株の作成によって明らかにした。
|