研究概要 |
ボツリヌス神経毒素はボツリヌス菌が産生する分子量150kDaのタンパク質毒素である。本毒素を経口摂取することにより、致死率が高く重篤な食中毒であるボツリヌス食中毒が引き起こされる。本食中毒が発症するためには、神経毒素が消化管から吸収され、血中に移行しなくてならない。一方で毒素タンパク質などのmacromoleculesの消化管からの侵入は、消化管上皮細胞バリアにより阻止されている。巨大蛋白質分子である本毒素が消化管上皮バリアを通過する機構は不明である。本研究では本毒素の消化管吸収機構を明らかにする目的で、本菌が消化管上皮バリア機能を低下させる物質を産生している可能性について検討した。 その結果、ボツリヌス神経毒素複合体の1つであるB型16S毒素に腸管上皮細胞間バリアの主軸であるtight junction機能を破壊する新規の活性があることを、Caco-2、T84やMDCK細胞をtranswellで培養し細胞間電気抵抗値(TER)を測定する系により発見した。さらに本活性はHA成分が担っていることが明らかになった。Caco-2やT84細胞などを用いた実験系から、本活性は細胞障害性を伴わないこと、および本活性によりFITC-dextran20k、40k、150kなどのparacellular tracerや神経毒素の細胞間隙からの流入が著しく増加することが明らかになった。また本活性はマウス結紮腸管を用いたin vivoの系においても発現し、FITC-dextran 20k,40k,150kやボツリヌス12S毒素の腸管吸収が実際に促進されることが確認された。本研究課題により、ボツリヌスHAには、腸管上皮細胞間バリアを破壊して、ボツリヌス神経毒素の腸管上皮バリア通過を促進するという新規の活性があり、この活性によりHAはボツリヌス食中毒発症に重要な役割を果たしていることが初めて明らかにされた。
|