研究概要 |
細菌が産生する菌体外毒素はタンパク質であり,その菌の病原性を決定する重要な因子である。細胞質で生合成された直後のこれらの毒素は単なるアミノ酸のひもである。この細胞質で合成された菌体外毒素が菌体外に活性を有する毒素として放出されるためには,すなわち生合成された毒素が成熟化されるためには、菌が産生する種々の因子や装置が関与する。これらの因子や装置が欠損すれば,菌は毒素を産生出来なくなり,病原性も消失する。それゆえこの成熟化過程は菌の病原性を左右する過程であり、これらの過程を阻害する薬剤は感染症の治療に有用である。本研究ではアエロモナスの溶血毒素,プロテアーゼ,大腸菌の耐熱性下痢毒素(ST)の成熟化の研究を行った。その結果、ある種のアエロモナスは試験管での培養では溶血毒素を産生していない菌の性状を呈するが,人の体内では溶血毒素を産生し,病原性を発揮している事を見いだした。解析の結果,これらの菌の溶血毒はカルボキシ末端が変異し安定性が欠けているため、試験管内では溶血毒が産生されてもすぐに分解を受けるため、非産生株と見なされる事を証明した。またアエロモナスのメタロプロテアーゼを精製し、分子量を決定した。さらに本遺伝子をクローニングし,このメタロプロテアーゼは成熟化される際にアミノ末端,カルボキシ末端がともに切断され、成熟化される事を証明した。次いで耐熱性下痢毒素(ST)の成熟化では菌体外に分泌される際に外膜タンパクであるToICを介して菌体外に放出されるが,このToICが機能を発揮するにはToICの197位〜207位のアミノ酸が重要であることを明らかにした。
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