研究概要 |
本年度はH.pyloriの持続感染に影響する固有遺伝子cdrA(細胞分裂に抑制的に作用する)の機能を解析する為に電子顕微鏡学的(透過型及びシャドーイング法)に菌体内部の微細構造を両株間(cdrA破壊株と野生株)で比較した。破壊株はペリプラスム領域が厚く、菌体は野生株よりも短桿菌である事をヒストグラムを作製し明確にした。野生株は1%NaCl濃度では分裂できずに伸長化するが、その分裂部位では内膜の両極分離までは観察された。以上より、本菌の細胞壁合成過程に本遺伝子が関与していると考え、対数増殖期と停滞期で細胞壁の主構成成分であるペプチドグリカン層のPBPs(1,2,3,4)プロファイルを比較した。両株間では顕著な量的差は認めなかったがPBP1に対するPBP3やPBP4の発現比は破壊株の方が高くPBPs構成比率は両株間で異なっていた。さらに、β-ラクタム剤に対する感受性試験の結果、MICでは差を認めないが殺菌試験では破壊株の方が100倍から1000倍以上も殺菌されにくく薬剤に対して寛容になっている事を明らかにした。ゆえに、PBPs構成比率の差が薬剤感受性に影響し破壊株は寛容になっていると考えられた。 cdrA遺伝子の多型性解析は米国株と日本株で行い、4つの型(IからIV型)に分類し、IとII型はcdrA機能保持型でIIIとIV型は機能欠損型にグループ分けできた。日本と米国間ではこの分布に大きな相違を認めた。すなわち、日本株は殆どcdrA機能保持型(1とII)であるが米国株は83%が欠損型(IIIとIV)であった。現在、宿主免疫応答や疾患との関連性を解析中である。また、マイクロアレイ法を用いて菌体内でのcdrAに係る全遺伝子の転写発現解析を行った結果を既に得ており、今後解析する予定である。
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