研究概要 |
肺炎球菌は市中肺炎の原因細菌として最も重要であり,近年は薬剤耐性菌が増加し臨床的に問題となっている。特に高齢者,乳幼児,脾摘患者,慢性心肺疾患を有する患者では重症化し治療に難渋することも少なくない。このような症例には,莢膜多糖体ワクチンの接種が推奨されているが,その予防効果はまだ十分とは言えない。このような背景から,より効果的なワクチン開発のためにも,肺炎球菌に対する感染防御機構の解明が重要であると考えられている。 本研究では,マウス肺炎球菌肺炎モデルを用いることで,初期感染防御における自然免疫リンパ球,特にNKT細胞,γδT細胞の役割,そしてこれら細胞の機能発現におけるTh1関連サイトカインの関与について詳細な解析を行った。IL-12遺伝子欠損マウスや抗IFN-γ中和抗体を用いてこれらのサイトカインの機能を阻害すると,肺炎球菌に対する感染防御能が著明に低下した。これはMIP-2、TNF-αの産生低下、そして好中球集積の減少とよく相関しており、Th1関連サイトカインが好中球依存性の感染防御能を増強することで肺炎球菌感染制御に重要な役割を担っていると考えられた。また,遺伝的にNKT細胞を欠損したJα18KOマウス,γδT細胞を欠損したCδKOマウス,そして肺に多く存在するVγ4+γδT細胞を欠損したVγ4KOマウスでも肺炎球菌感染が著明に悪化しており,MIP-2,TNF-α産生低下,好中球集積低下とよく相関していた。Jα18KOマウスにおける好中球性感染防御能の低下はrIFN-γの補充,あるいは野生型由来肝臓リンパ球(LMNC)を移植することで完全に回復したが,Jα18KOマウス由来のLMNCではそのような効果はみられなかった。一方,Vγ4KOマウスにおける感染防御反応はrIFN-γの補充によって十分な回復はみられなかった。 本研究を通して,肺炎球菌感染において,自然免疫リンパ球,特にNKT細胞とTh1サイトカインが好中球依存性防御免疫反応の制御に深く関与していることが明らかになった。これらの知見は,より有効な肺炎球菌ワクチンを開発する上で重要な基盤的情報を提供するものと考えている。これらの結果は3編の論文にまとめ現在投稿中である。
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